【  四  神  転  生  】  
































1   はじまりの章

























午後11時をまわった頃。とあるマンションの一室。

十分に灯りを落とされた室内。そこに居るのは、ダイニングテーブルを挟むようにして座る三十代後半と思しき男と小学生ぐらいの少女。

男は、恰幅良く上背も随分あるように思えるが、今は、背中を丸め、項垂れ、両腕で頭を抱え込む姿勢になっているせいか、見た目より随分小さく感じる。そして、その眼前に座る少女は大きな瞳に大粒の涙を溜めて、男を辛そうに見ていた。

一見、これだけを見れば親子のように感じるだろうそれが、そう見えないのは、少女の前に置かれた数冊の通帳と印鑑、そして大きな茶封筒一枚。

ふと、男は、手から僅かに顔を上げ視線を合わせないまま、眼前に座る少女に声を掛けた。

『・・・なぁ、織音ちゃん。織音ちゃんは、今、いくつになったんだったかね・・・?』

織音―・・・と呼びかけられた小さい影の主の少女は、眼前に座る男に震える声で『明日で、十歳になるんだよ』と答える。

それに対し、男は、『そうか・・・そうだったね・・・』と、答えたきり再び頭を抱え、黙り込んだ。

どれほどその沈黙が続いただろうか・・・?

『オジ、さん・・・?』

不安に満ちた織音の小さな声に、叔父・・・と呼ばれた男は、大きく肩を揺さぶらせた後、ゆっくりとした動作で顔を上げ、その視線はキョトキョトと落ち着きなく辺りを彷徨っている。

『・・・その通帳は、君が成人するまでの学費や生活費だから、必要に応じておろして使ってくれ。・・・その印鑑は認印で大切なものだから無くさないようにして持っておきなさい。・・・それとその茶色の封筒には君の家のマンションの部屋の権利証だったり大事な書類だったりするから、それも無くさないように家に帰ったらきちんと何処かにしまっておきなさい。家の鍵は郵便受けの中にスペアーともどもいれてあるからね。・・・あとは』

突然早口で話し始めた叔父の言葉は、織音にとっては、分からないことだらけに、小さな頭をいやいやをするように横に振る。その際に、目に溜まっていた大粒の涙がポトポトと床に零れ落ちる。

『・・・叔父さん、何言ってるの?私・・・ここの子になったんでしょ?叔父さんや叔母さんの子供になったんでしょ?』

『あとは・・・そうだね、君が家に着いてから見て自分で考えなさい。水道やガスや電気もすぐ使えるようにしてあるし、生活に必要なものは色々準備しているから。・・・ああ、そうだ、それから』

織音の声など聞こえていないかのように尚も話し続ける叔父に、織音はじれて、椅子からおりるや叔父の腕にすがり、

『パパとママの代わりにずっと、ずっと一緒に居てくれるって言ったじゃない!ウソツキ!!』

『うるさい!!!』

織音が叫ぶのと同時。

叔父の怒号と共に、ぱんっ、と室内に乾いた大きな音が響く。

織音の小さな身体は、男の強い平手で吹き飛び壁にその身体を打ちつける。そのあまりの衝撃に声もなく蹲り、打たれた頬を両手で押さえ叔父見上げれば、そこにはいつも穏やかに優しく微笑んでいた叔父の顔はなく、普段からは想像もつかない鬼の形相をした叔父が荒い呼吸をしながら仁王立ちしてこちらを見下ろしていた。

『っぅ・・・!』

時が経つほどに熱を持ちじくじくとした痛みが襲ってくるのに、織音は叔父の豹変振りに恐怖し、泣くにも泣けず、声を呑む。一方の叔父は、荒い呼吸が落ち着いてくるのと同時に今しがた自分が行なった愚行に驚愕し、「すまない!」と少女の前に土下座する。

『すまない!本当にすまない!!・・・私はとんでもないことを!!君を兄さんたちからから預かって育てると約束したのに!・・・いや・・・それよりも、まだ義務教育も終わっていない君を放り出そうとしているのだから、それこそ赦されることではないか・・・』

「お、じ・・・さん・・・?」

蹲るようにして頭を抱えるその姿に、いつも頼もしく感じていたものはない。織音は、新たに目にたまってゆく大粒の涙を必死に零れ落ちるのを、身にまとうスカートの裾を握り締めることで必死に耐えていた。

『しかし、もう耐えられんのだよ!もううんざりなんだ!!頼むから―』

そうして続けられた言葉に、織音は痛む頬も忘れ、静かに涙を流した。

『頼むから、私たちの目の前から消えてくれ!!!もう私たちの生活を引っ掻き回さないでくれ!!!・・・頼むから平穏な時間を返してくれ!!!』

泣き崩れる叔父を呆然と見ていた織音は、しばらくしてふらりと立ち上がると、テーブルの上に置いてあった通帳と印鑑を茶封筒の中に入れるや、それを抱えるようにして持ち、リビングの扉を開けて玄関へと出て行った。

玄関の扉がキィッと小さな音を立てて開くと、間もなく閉まる音が鳴った。

叔父は、それを聞くや、ゆらりと立ち上がると手で顔を隠し、肩を震わせ始めた。

『・・・くっ・・・くくくっ・・・くふっ、くはははははっあはははははははははははは!』

ふら付く足で、テーブルや棚にぶつかりながら、最後は壁に激突するようにして止まった叔父は大笑いしだす。

「あははははははははは!やった!やったぞぉー!!化物がやっと家から居なくなったぞぅっっくふ、くはっ、あはははははははっあはははははははは!!!やったぁ!やったぞぅー!!!化物が・・・化物が、居なくなったんだぁ!!くはっくはははははははははははははは!!!おーい、美和子ぉー!あいつが、いなくなったぞぉー!何処行ったぁー!お
ーい、子、あ・・・す・・・・・・・

リビングの隣の続き部屋の扉を開け入ってゆく姿と、狂ったかのように笑い、叫び、そしてだんだん聞こえなくなってゆく声を、じっと視聴していた一対の瞳。

それは、先ほど玄関から出て行ったはずの織音。呆然としたまま何もお別れの挨拶をせずに出てきてしまったので、最後に感謝の言葉だけでも伝えようと思い、玄関の扉は開けたが、引き返してきたのだ。

そして、コレだった。

静かに、音がしないように玄関へと行き、扉を開ける。

そして、今度は背後を振り返ることなくその場を去った。

まだ、叔父の笑い声が頭の中に残響していた。









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≪コメント:すみません!前まで載せていたものを撤去し、改めて書き直しUPしなおしさせていただきました;それにあわせ、設定も新たに作り直してUPしておりますので、どうぞそちらもご確認下さい。そして、この序章の話じゃあ、叔父の狂いっぷりとか分からないと思うのですが、次回からその原因的なものが話の都合上出てきます。

じゃっかん、この始まりだけで、この話の傾向が分かってくるかとは思いますが、【戦う主人公】です。そして、【化物(←地球外生命体的な何か)】要素も出てきます。多少の流血シーンのようなものも書くことがあると思いますが、私は、個人的に人が受け入れ拒否するほどのものを書く趣味は持っていませんので、そのあたりは安心していただければと思います。
一応、苦手だなと、不快だと感じる方がいらっしゃいましたら、ブラウザ・バックでお戻り下さい!

これからこの話を書き進めていく上で、主人公の心の成長を書いていけたらなぁと思っています。それでは、また!≫